「標なき道」堂場瞬一
ランニング関連メディア(雑誌・本・etc)どうしても聞いてみたいことがあったのだ。人はどこまで記録を伸ばすことができるのか。あれだけのスピードを何歳まで保つことができるのか。要するに「オッサン、何でそんなに速いんだ」という素朴な疑問に対する回答が欲しかった。
「標なき道」より
久しぶりに読書感想文(それ以前に久しぶりのブログ投稿(^^;))。
今年に入って「堂場瞬一 チーム」という検索でこのブログにやってくる人が多いみたいです(Googleで検索すると、何とAmazonの次とかにヒットしちゃうんですね!)。先月あたりに文庫化されたというのは知っていたのですが、ここにきてアクセスが急増しているのは、やっぱり実際の箱根駅伝が終わってということも影響しているんですかね? 興味ある方はこちらの記事(「チーム」堂場瞬一)をご覧ください。この小説もお薦めですよ♪
さて、今回は同じ堂場駿一さんの「標なき道」(文庫化される前は「キング」という題名)。「チーム」よりもずいぶん前に出ていたようなのですが、駅伝ではなくオリンピック出場をかけたマラソン選考レースが舞台の小説です。
標なき道 (中公文庫)
同じ大学陸上部の出身でありながら、全く違う道を歩いてきた3人のランナー。一人は日本記録保持者でありながら故障に悩まされるガラスのエース。一人は実力はありながらも陸連を真っ向から批判したために表舞台から姿を消したアウトロー。その2人が再起をかけて、五輪出場権最後の一枚をを賭けたレースに参戦する。そして最後の1人は、この物語の主人公であり、長く安定した結果を残したものの優勝には縁のない「勝ち方を知らない」ランナー。そんな主人公に「決して検出されないんです」とドーピングを勧める男が現れて……というストーリー。
オレだってランナーなんだ。走る権利がある。もしかしたら、勝つ権利も。
最初は勝つことにはこだわらず「完走」が目標だなどと言っていた主人公が、過度な程追い込んでいる2人の同窓生と関わったり、周囲に暗に限界を諭されたりするうちに徐々に「勝ちたい」という気持ちが芽生えてくるまでの心情の変化、一方で勝つためには自分の力は及ばない、でも絶対にばれないドーピングがあるのなら、、、という葛藤。そんな主人公の葛藤が生々しく伝わってきて、ついつい小説世界に引き込まれてしまいます。「チーム」のときのリアリティもそうでしたが、この辺りの堂場瞬一の筆力はさすがです。
それよりも何よりも、レベルは全然違えど、同じマラソンランナーとして共感できるセリフがいっぱい出てくるのがやはり面白いです。この記事でもそうですが、ブログで本を紹介するときには、必ず琴線に引っかかった言葉を冒頭に引用するようにしています。そんなわけで、気になった箇所があると、栞(というかそれ代わりの紙切れ)を挟みながら読んでいるんですが、あまりに色々ありすぎて、読み終わったときには本が栞だらけになっちゃいました(^^;)。「一瞬の風になれ」のときもそうだったなぁ……。
せっかくですので一部だけでもご紹介を。
何だかんだ言って、ずっと続けてる人間は偉いんだよ。そういう人間は、俺たちみたいに途中でやめちまった人間にとっては希望の星なんだ。
続けること自体が一つの才能。そんな意図のセリフがこれ以外にも多く出てきます。文中では「趣味じゃなくアスリートとして」という言葉が含まれていますが、そんな言葉がなかったとしても、例え趣味だとしても、何か一つのことを続けていけるということは、それだけで凄いことなんだと思わされます。
「俺はお前について行く。お前が走っていると思えば頑張れる」
(中略)
「お前のペースメーカーになるつもりはないよ」
「心のペースメーカーだ」
ある本で「レースを走るのは一人だけれど、一人ではレースは走れない」という市民ランナーの声が紹介されていました。例え隣にいなくても、同じレースを仲間が一緒に走っている、いや同じレースですらなくても、どこかで一緒に走っているという仲間がいると考えるだけで、辛いときの励みになりますよね。
こんなに簡単で面白いスポーツは陸上だけだからな。何もなくても裸一つでできる。そこが魅力だった。(中略)。陸上は、人間の素の部分がそのまま試されるんだ。隠し事なんかできないし、能力も個性も素っ裸の状態で出てくる。面白いもんだよな。
ただ走るだけ、というシンプルであるが故に奥が深いスポーツ。空前のランニングブームになっていますが、そのシンプルさと奥の深さ故にみんなのめり込むんでしょうね。
などなど。
その他にも色々とあるのですが、興味のある方は是非自分でご一読を。ちなみにこのレース、東京オリンピックと同じ国立競技場をスタート・ゴール地点にして調布で折り返すというコースで、自分が走ったこともあるなじみ深い地名が所々に現れるのも何気にポイントでした。
ただし、ドーピングをテーマにしているだけ会って、結構生々しいどろどろした部分も描かれていますので、爽やかな(だけの)青春小説を期待している方はちょっとご注意を。
ところで、この小説を読んで、昔読んだ同じくドーピングをテーマにした小説を思い出しました。
「ドーピングは悪いこと」と一刀両断に切り捨てるのは簡単ですが、「何故ダメなのか?」と問われると意外に明快な答えがないことに気がつかされます(私ももちろん決してドーピング擁護派などではありませんが)。今回も色々と考えさせられましたが、この小説のこの言葉が一つの答えになっている気がします。
「ルールが定めているからとか、練習をしているからとか、そういうことではありません。ドーピングをしたことで、泣いている人がいる。だからわたしはそれを悪と断ずることができます」
松樹 剛史「スポーツドクター」より
<関連する投稿>
- 「ヒート」堂場瞬一 (2011 年 12 月 9 日)
- 「チーム」堂場瞬一 (2008 年 11 月 16 日)
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