「ヒート」堂場瞬一
ランニング関連メディア(雑誌・本・etc)堂場瞬一「ヒート」を読了。
堂場瞬一のランニング小説ものは、「チーム」「標なき道(旧題:キング)」に続いて3作目。
今回の「ヒート」は「チーム」の続編という触れ込みでしたが、実は「標なき道」の続編でもあってこちらの登場人物も顔を出してきてにやりとさせられました(^^)。
「チーム」の登場人物の1人である山城に世界最高記録を出させるためだけに新設された東海道マラソン。世界最高記録を出すために奔走するスタッフ、ペースメーカーに抜擢されたランナーの心情、そして当の山城の心情、3者の想いが錯綜したレースの結果は?というストーリー。
ちょっと荒っぽい部分はある気もするけれど、相変わらずレースのシーンの心理描写は真に迫るものがあるし、運営側の視点も入り乱れて、ランナーであれば読んで損は無いと思います。個人的には3作の中では一番楽しめた思います。それに、面白かったというのもそうなんですけど、それ以上に色々と考えさせられたな、と。
1つは、裾野を広げるためのマラソン大会は確かに必要だけれども、それだけでいいのか? という、昨今の都市型市民マラソンの乱立についての問題提起。
この物語中で上がっているのは、エリートのレベルが低迷しているという観点だったけど、個人的に思っているのは、せっかく裾野が広がってきても、そうしてマラソンの世界に入ってきたランナー達が、次に目指すべき目標とも言えるレースがどんどんなくなっていっている現状。
タイムが全てではないと思いますが、タイムというのが分かりやすい目標だというのも事実。ちょっと頑張らないと届かない、でも頑張れば届くかもしれないというレベルの大会が目標としてもっとあってもいいんじゃないかなと(昔の仙台や北海道のような。どっちも制限時間が大分緩くなってしまいましたね)。そういう意味で、湘南国際マラソンが90分制限のハーフを始めたことは、個人的にはかなり大歓迎で、こうした大会がもっと増えて欲しいと思います。
もう1つは、ペースメーカーを始めとする、何から何までお膳立てされたレースと言うものの是非について。
以前ペースメーカーにペースメークをしてもらいながらサブ4を達成したお仲間がいたんですけど、そのレースの後「それはそれで嬉しかったんだけど、次は自分の力でサブ4を達成したい」と言っていたのを思い出しました。
かといって、ペースメーカーを利用してでも、それで目標達成ができるんであれば、それはそれで達成感はあるという側面も確実にあるでしょう(特に我々のような市民ランナーレベルならなおさら)。
最近では、男女同時スタートの場合、女子マラソンの世界記録は今後認められなくなるとの宣言がされて一悶着ありましたし。個人的な意見としては男子と一緒に走ろうが何だろうが記録は記録だろうというスタンスなのですが、ペースメーカーにきっちりとお膳立てしてもらっての記録というのは確かに賛否両論あるよなぁと。ランナーだけでなくチームぐるみ(場合に寄っては運営も含めて)で一丸となって目標達成を目指すという美談にもなり得るだろうし、30kmからがレースでそれまでの駆け引きが皆無というのはスポーツという側面からどうなんだろうという面も確かにあると思う。
これは実際に走っている立場からしても、簡単に答えは出せないなぁ。
(ちなみに、個人的にはあまりペースメーカーを利用しないのですが、それはペースメーカーの存在に否定的だからではなく、単純に自分のリズムで走るのを優先させたいと思っているからです)
さて、次に、いつものように琴線に引っかかったフレーズを。
マラソンの大会で最も格が高いのは、世界最高を記録したレースだろう? 市民マラソンで三万人が参加しても、それは単なるイベントに過ぎない。素人が走るのを見て何が面白いんだ。
「同年代で、お前がまだ頑張って走っている。それだけで励みになるんだよ。〜(中略)〜。同年代のランナーは皆、お前の中に自分を見てるんだ。自分がなれなかった理想のランナー……お前が走っているうちは自分も走ってる気分になるんだ」
確かにペースメーカーがいると楽だ。背中を追って行けば、自分でタイムを気にする必要は無いのだから。だが、マラソンで最も大事な要素ーーペース配分を他人に任せてしまうのは、正しいことなのだろうか。野球で、バッターが次の球種を必ず教えてもらうようなものではないか。それではスポーツの楽しみは半減する。ルール内のことだからいいのか? 誰もが高速レースを望んでいるからいいのか?
自然な状況で、自分の出来る限りの力を出すのがマラソンなのだ。こんな過保護な状態で記録を出しても、ベルリンで共に走ったライバルたちには笑われるだろう。
一度も見たことの無い夢を、今日だけ見てもいいじゃないか
頑張っていいのか? 俺はまだ走れるのか? 走っていいのか?
上述したように考えさせれたフレーズや、相変わらずのランナーの心理に突き刺さる言葉がいっぱいでした(^^)。
それから、茶茶入れを二つばっかし(^^;)
・突然「横浜国際マラソン」という文字が(^^)? 何故この場面で横浜国際?と思ったけれど、文脈上どう考えても「東海道マラソン」の誤りですな(^^;)。
・公認コースは42.195kmの1000分の1まで許されるから、世界記録を出させるために42mだけ短いコースを設定しようと画策するシーンがあるんですが、ルールととしては1000分の1まで「長い」分には許されるのであって、短い方は確か認められなかったと思うのだが?? 1次情報が見つけられなかったのですが、ネットで公認コースの規定について書いているサイトでは大体その記載でした。惜しいっ!ってか、間違えるくらいなら、こういうトリビアは書かない方がよかったですね(^^)
はい、ただの茶茶入れですので、気になさらず。これが理由で全体の印象が悪くなった訳ではありません(^^;)。
最後に、前回「チーム」のレビューをしたときの最後に塀内夏子の「ロード」の話題を書いたのだけれど、寄せ集めチームの駅伝の後に、フルマラソン編の続編が描かれるというのも奇しくも同じだなぁと面白かったです(^^)。「ロード」のときは駅伝編が架空の駅伝大会で、フルマラソン編が実在の福岡国際マラソンが舞台。今回の「チーム」「ヒート」は駅伝編が実在の箱根駅伝で、フルマラソン編が架空の大会で真逆というのも面白い(^^)。
なんか、いつも以上にまとまらない文章になってしまった気がしますが、とにかく、ランナーの皆様にとっては読んで損はない一冊だったと思います(もっとも、ネットのレビューを見ると、いまいちだったの評もちらほら見ますので、あくまで個人的には、と追記しておきます)。
<関連する投稿>
- 「標なき道」堂場瞬一 (2011 年 1 月 15 日)
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偶然にも、つくばの直前に「チーム」を借りて、奥多摩が終わって読み始め、昨日読み終わったところです。続編が出てるのですか!これは読まないと。チームで、気になったのは「山城」でした。彼の話なら楽しみです。
ペースメーカーの話、奥深いですよね。うちのチームでも、時々ペーサー付けて走る人がいて、うらやましくなります。でも、やはり自分は、自分のペースで、自分の力で走りたいと思ってます。特に勝負レースなら、尚更。ランクリのTTで一度だけ4分半で大学生に引っ張ってもらいました。ほとんど1対1で励ましてもらい、当時は彼がいなければ出せないタイムでした。今でも忘れられない大切なレースの一つです。いつか自分に越えられない壁ができた時、誰かにペースメーカーをお願いしてみたいと思ったりします。
2011 年 12 月 12 日 10:40 posted by みぎ姉
>みぎ姉さん
みぎ姉さんのJogNoteをみて、私も「おっ!何かいいタイミング」って思いました(^^)。
何なら金曜日か(いけるかどうかは当日まで未定ですが)、もしくは神宮外苑駅伝のときに持って行きますのでお貸ししましょうか?
ペースメーカーの話、難しいですよね。
個人的には、自分もやっぱり自分の力で走りきりたいなと思います。というか、そもそも他人のペースで走るのが苦手な人なんで(^^;)。
でもまぁ、やっぱり時と場合によりますよね。今まで超えられなくて苦労していた壁をペースメーカーのおかげで乗り越えられたなら、それは絶対に嬉しいでしょうし、一度超えることができたならきっと今度は自分の力でと思うでしょうし。自分の中だけで考えたとしても、結局どこまでいっても賛否両論だなぁと。
2011 年 12 月 14 日 00:18 posted by 真琴
「ヒート」是非貸してください。
もし、お持ちであれば、その前の「標なき道」も・・。
超楽しみです!!!
2011 年 12 月 14 日 13:11 posted by みぎ姉
> みぎ姉さん
ラジャーっす!
2011 年 12 月 16 日 08:25 posted by 真琴
1000分の1短い も許されますよ。
2014 年 8 月 30 日 18:54 posted by ター坊
>ター坊 さん
コメントありがとうございます。
私も不確かな知識でしたし、気になったので改めて調べてみました。
国内では一番のオフィシャル情報だと思われる日本陸連のルールブックが公開されていました。
その中の、長距離競走路ならびに競歩路公認に関する細則に「第6条 長距離競走路または競歩路の距離における許容誤差は(+)0.1%以下とし(-)は認めない。」とありました。
これを見る限り、やはり短いのはダメな気がします。
(参考)
陸上競技ルールブック http://www.jaaf.or.jp/athlete/rule/
長距離競走路ならびに競歩路公認に関する細則 http://www.jaaf.or.jp/athlete/rule/pdf/10-6.pdf
2014 年 8 月 30 日 23:26 posted by 真琴